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2023年6月、としまえん跡地に「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京 – メイキング・オブ・ハリー・ポッター」がオープン。映画『ハリー・ポッター』シリーズの体験型施設誕生に、練馬区は沸いています。
一方、赤坂の「TBS赤坂ACTシアター」では、2022年7月から舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』が無期限ロングラン上演中。劇場とその周辺が作品の世界観につくり替えられ、赤坂に着いたときからハリー・ポッターの世界に没入できると評判を呼んでいます。
そんな赤坂のまちづくりマインドは、きっとこれからの練馬にも参考になるのでは?というわけで、今回は特別に練馬を飛び出し、都心の赤坂へ。「赤坂エンタテインメント・シティ計画」を担当するTBSテレビの岡田慎太郎さんに、ねりま観光センター長の吉田法仁がインタビューしました。
観劇の前後に、まちで楽しむひとときを
岡田慎太郎さん/TBSテレビ アニメ映画イベント事業局 ライブエンタテインメント部、TBS赤坂ACTシアター支配人
吉田 まずは赤坂で進んでいる再開発プロジェクトについて教えていただけますか。
岡田 2028年竣工を目指して2棟のビルを建設中です。これらにはホテルやオフィスに加えて、新劇場、ホール、さらにエンタメのクリエイターやスタートアップ企業の育成・交流施設が入る予定で進行しております。赤坂を最先端のエンタメ発信地にしたい。そんな想いで、TBSと三菱地所が一緒にまちづくりに取り組んでいます。プロジェクト名は「赤坂エンタテインメント・シティ計画」。舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』の誘致は、本プロジェクトの一環でありプロローグなんです。
吉田 なるほど。今まさにハリー・ポッターというコンテンツを起爆剤に、まちを盛り上げていらっしゃいますよね。
岡田 今日は千代田線赤坂駅からお越しですか。
吉田 はい。駅に降りたら、聞き覚えのある音楽が流れていました。
ホグワーツ魔法魔術学校の動く階段をモチーフに装飾された赤坂駅3B出口。タイムターナー(逆転時計)のオブジェ(左)、左右の壁面には42枚の肖像画(右)
ハリー・ポッター専用シアターとして改修されたTBS赤坂ACTシアターのロビー。吹き抜けの大きなガラス窓を、ホグワーツ魔法魔術学校の4寮の紋章旗が彩る。足元には校章が入った深紅の絨毯、天井には星空が広がり、1階壁面には物語に登場するパトローナス(守護霊)が描かれている。画像提供:丹⻘社 撮影:奥村浩司
岡田 赤坂駅に着いた瞬間からハリー・ポッターの世界観を感じていただきたくて、地下鉄の出口から劇場に向かう大階段を装飾し、音楽を流しているんです。階段の途中には、物語を象徴するタイムターナー(逆転時計)のオブジェを設置しています。みなさん、これを見つけて早くもテンションが上がるようです。そして劇場に入ったら、絨毯や壁、天井に至るまで空間のすべてがハリー・ポッター仕様になっているという趣向です。お客さまをワクワクさせるにはどうしたらいいだろうと考えながら、開幕前に半年間かけて全面改修しました。
人気のフォトスポット・本棚形式のキャストボード前で、岡田さん(左)と吉田(右)
吉田 劇場の中も周辺も、本当にフォトスポットだらけですよね。
岡田 そうなんです。開演時間前に余裕をもって赤坂に来て、記念撮影している方々が多いようです。上演開始から1年たった今でも、タイムターナーのところに撮影待ちの列ができるんですよ。私たちの背後にあるキャストボードを本棚形式にしたのも、ハリー・ポッターの世界観をできるだけ再現したかったからです。ここは一番のフォトスポットになっています。日本では一般的に、観劇する人は開演時間の直前に劇場に来ることが多いですよね。でも開演前の時間を、まちや劇場のロビーでもっと楽しんでいただきたい。そう考えたプロジェクトの仲間たちと試行錯誤し、その結果、たくさんのお客さまの時間軸を変えることができたのだと思います。
吉田 新しい観劇スタイルを提案されたわけですね。
魔法ワールドにインスパイアされた外観、インテリア、メニューが話題の「Harry Potter Cafe」。フード、デザート、ドリンクのほかコースメニュー、テイクアウトメニューも用意
オフィシャルグッズが揃う「ハリー・ポッター マホウドコロ」。入口の上では白フクロウのヘドウィグが、ウェルカムメッセージと共に出迎えてくれる
岡田 実は当初、劇場と周辺をどう変えるべきか、なかなか決まりませんでした。改修プロジェクトが難航していたある日、TBSデザインセンターの仲間が1枚のラフスケッチを持ってきてくれたのです。タイムターナーの設置と大階段装飾の原案です。私たちが会議を重ねて悩んでいるのをずっと見ていて、「こんなの描いてみたんですけど、ここからイメージを広げていけばいいんじゃないですか」と。その1枚が原点になりました。「こんなことができるんだ!」とみんなで興奮して、一気にアイデア出しがふくらんでいきました。あれはまさに0(ゼロ)から1(イチ)が生まれた瞬間だったと思います。
吉田 とても興味深い裏話です。
岡田 ワーナーブラザースの多大なご協力を得て、ハリー・ポッターのカフェやオフィシャルグッズショップもオープンし、おかげさまで開幕1年を経過した今も、大変人気を博しています。観劇後は舞台の余韻に浸りながら食事や買い物ができます。ニューヨークやロンドンの劇場街にはレストランやパブがたくさんあって、人々が舞台の感想を語り合いながら食事を楽しんでいる光景をよく見かけます。そんな観劇文化を日本にも根付かせたいですね。
世界を熱狂させた舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』が、日本オリジナルキャストで上演中。原作シリーズ最終巻の19年後が描かれる。次から次へと飛び出す魔法の数々に驚嘆必至。
吉田 舞台の感想といえば、私も昨年『ハリー・ポッターと呪いの子』を観せていただいたんですが、劇中の魔法がとにかく衝撃的でした。いろいろなものが消えたり飛んだり、一体どうなっているんだろうって。一緒に時空を超える感覚や、劇場全体が揺れる感覚もありました。あれは単なる「鑑賞」ではなく、「体験」といえるものでしたね。
岡田 おっしゃる通りです。私も「魔法を体験しに来てください。魔法は現実になるんですよ」といつも話しています。3時間40分、驚きの連続だと思います。5分に1回、何かが起こりますから。
吉田 生の舞台であれだけの体験ができるのは素晴らしいですね。
岡田 だから観劇後に「なんだかすごいものを観たぞ。これは語り合って共有しないわけにはいかないぞ!」と思っていただけるのではないかと。そのための場を赤坂の飲食店が提供しています。そして、まちに賑わいが生まれています。赤坂はオフィス街なので、土日は人が少ないまちだったんです。でも最近は違います。上質なエンタメのコンテンツを掛け合わせることで、まちはこれだけ活性化するんだなということを、この1年で実感しています。
【後編】へ続きます
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』
TBS赤坂ACTシアターでロングラン上演中&チケット好評販売中!
ハリー・ポッター:藤原竜也/石丸幹二/藤木直人/大貫勇輔 他
https://www.harrypotter-stage.jp/
フリー編集者&ライター 松田亜希子(Akiko Matsuda)