特集記事 Reviews

#102彫刻家・日本大学藝術学部美術学科教授
鞍掛純一さん

美術の森緑地がリニューアル
カラフルで楽しい空間に!


 練馬区立美術館(中村橋駅徒歩3分)に隣接する「美術の森緑地」が、2015年4月4日にリニューアルオープン。動物をテーマとした20種類32体の彫刻などが配置されます。美術の森緑地の制作指揮をとり、ご自身も彫刻作品の多くを手がけた彫刻家である日本大学藝術学部美術学科教授の鞍掛純一さんにお話を伺いました。

「バリアフリーで誰もが楽しめる緑地に、という軸を持ちながら構想をまとめていきました。幻想的な動物たちのオブジェをカラフルで楽しい雰囲気を出すように心がけ、子どもたちが乗ったり触ったりしてもいいように強度にもこだわりました。素材はブロンズ、ステンレス、強化プラスチックなど様々で、質感の違いも面白いと思います。怪我をしないように、地面には天然芝やゴムチップを敷きました」

 取材日はちょうど動物たちの搬入の日。トラックからゴリラや象がクレーンで吊るされながらそれぞれの持ち場に設置されていきます。かわいらしいキノコ、ベンチを兼ねたイヌとカメ、存在感のあるキリン、どの作品もオリジナリティがあふれています。

「巨大クマが、美術館の看板を持ってお出迎えしていますが、体を覆っているのはタマリュウという常緑の植物です。今回、正面入口を作ったことで、美術館への上り階段もわかりやすくなりました」

 階段を上りきったところには、「うつるもの」という鞍掛さんの作品が置かれています。これに練馬区立美術館の若林館長が、「たくさんの動物たちを見てきて、最後にうつるものは…自分という動物だね」と、哲学的な意味づけをしてくれたとのこと。姿ばかりでなく、心まで映し出されそうなほどの美しさですね。

「設置工事の間、何度も立ち会いをしましたが、その際に通りすがりの人に『リニューアルするようですね』と声をかけて前評判を聞いてみました。みなさん一様に『楽しみです!』『ワクワクします!』と答えてくれるので、うれしくなって『この作品を手がけたのは、実は私なんです!』と思わず語ってしまうこともしばしばありました(笑)」

 1,907平方メートルの緑地が、アートの力によってどんな風に変貌したのか、ぜひ皆さんも出かけてみてください。練馬区の新しい観光スポットの誕生ですよ!



日藝のある江古田の街が好き
課外授業は新潟の里山へ…


 練馬で好きな場所を訪ねると、「18歳のときからずっといる、日藝のある江古田の街」という答えでした。学生から助手を経て教授になるまで、約30年間を江古田で過ごしてきたそうです。

「この間は学生に誘われて、『江古田コンパ』という店に行ってきました。江古田は個性的な店がコンパクトにまとまっていてちょうどいい」とのこと。

 飄々とした風情で型にはまらない鞍掛さんですが、休日の過ごし方をたずねると、ちょっとの合間を見つけては車で新潟へ通っていると言います。

「これまで何百回行ったかな。自分の子ども3人のうち2人が産まれるときも、新潟にいました(笑)。新潟県十日町市で開催している『大地の芸術祭』があって、2006年に出品したのがきっかけ。作品制作のため、その2年前から学生をたちを連れて通っていました」

 そこで発表した「脱皮する家」は、鞍掛さんと学生たちによる壮大なアート作品。大変話題となったそうです。

「豪雪地帯の廃墟となった建物を、彫刻によって脱皮させたいという発想でした。築約150年の家の壁、床、柱、梁、階段、天井など室内のいたるところをコツコツと彫刻刀で彫り込んでいきました」

 里山の人たちとも徐々に心が通じ合うようになり、自然と人が共存し、人間が必要最低限のもので暮らすことの「豊かさ」を身をもって感じたそうです。

「技術が進む世の中で、人間が人間らしく楽しく生きていくにはどうしたらよいか…。自分の経験したことを周りの人たちに伝えていきたい」

 大学内での授業はもちろん、鞍掛さんの課外授業ではアートの枠を超えて、人の温かいところに触れています。

(2015年4月1日)

鞍掛さんの手がけた作品 巨大なクマは入口にいます! (取材時は設置工事中)

鞍掛さんの作品「うつるもの」 (設置工事中) (写真提供:鞍掛さん)

練馬区立美術館の階段の 両側にあるトンボの彫刻は 助手の内山翔二朗さんの作品 (取材時は設置工事中)

日藝の金属アトリエで作品作り (写真提供:鞍掛さん)

「脱皮する家」は、 建物自体がアート作品。 現在では農家民宿になっています (写真提供:鞍掛さん)

学生との垣根もなく、 いくつになっても「兄貴」と 慕いたくなります (写真提供:鞍掛さん)

「新潟のアートや棚田保存の 活動にも力を入れている」と 熱く語ってくれました

プロフィール

鞍掛純一さん

鞍掛純一さん

くらかけじゅんいち 1967年東京生まれ。画家である父の影響で芸術に興味を持ち、高3の夏に進路を決める。1986年に日本大学藝術学部(以後、日藝)彫刻専攻入学、1992年に日藝芸術研究所修了後も学科補助員として残り、講師等を経て現在は日藝美術学科教授。鉄という工業製品に手を加えることで温かみが生まれることに魅力を感じ、主に鉄による彫刻を手がける。20代の頃より個展やグループ展で作品を精力的に発表。2006年に「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」に初出品したことがきっかけで、棚田を保存する活動など新潟県十日町市との交流を続けている。

日本大学藝術学部

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