特集記事 Reviews

#095 助産師
江坂まやさん

おっぱいのケアを超えて、
ママたちの助けになりたい


 東京都で2番目に人口の多い練馬区では、毎年約6,000人の赤ちゃんが誕生しています。文字通り、そのお産を助けるのが、助産師の仕事。ほとんどの赤ちゃんが病院で生まれる今、助産師=産婦人科医を助ける仕事、というイメージが強いかもしれません。

 病院に勤務・常駐する助産師以外にも、自ら助産院を開いたり、自宅分娩や出張、外来ケアを行うなど、個人で活動する助産師がいます。そんな助産師が集まった練馬助産師会には、約40名が登録。その1人が、江坂まやさんです。まずは、産婦人科の減少など、練馬区の現状について伺いました。

「練馬区でも“お産難民”が増えているな、という実感は確かにありますね。大病院に集中するし、人気の産婦人科はすぐに予約でいっぱい。区内で産めないので、埼玉まで行ったという話も聞いたことがあります」

「病院では人手が足りないので、どうしても自然なお産より、安全のための管理が優先。産後のケアも十分してあげたいけれど、どこもお産で精一杯…。手が回らないのが現状なんです」

 病院の母親学級などでは「母乳が一番」といわれる一方で、おっぱいのケアまで手が届かない。おっぱいが出ないなどの悩みを抱えつつ、「母乳で育てなきゃ」という先入観が、産後のママを苦しめていると感じるそう。

 そこで、江坂さんたち練馬助産師会が、11年前からスタートさせたのが、SANGOさろん。おっぱいのケアや相談を通じて、地域に帰ったママたちをサポートする事業です。

「助産師という言葉を地域に広めたい、地域に根付かせる機会にしたい、という想いもあったんですが…。口コミでどんどん広がっていきました。今はリピーターも、すごく多いんですよ」

「『おっぱいだけじゃなく、気持ちも楽になった』とママの感想もあり、SANGOさろんに来ると開放感からか育児から家庭の話まで、いろいろな話が出てくるんです。実際、憑き物が落ちたみたいな顔になって帰られる方もいるんですよ! おっぱいを超えて、ママたちの助けになればと思っています」

 昨年度は、「練馬区子育てスタート応援券を使えるようにしてほしい」とママたち自身が署名を集め、券の使用が認められました。そのことからも、この場所が必要とされているのがわかりますね。



3人目は念願の自宅出産!
手伝った兄たちの反応は…


 SANGOさろんの会場、「ねりじょはうすLuna」は、同じく練馬助産師会の会員がグループで開業した助産所です。自分たちもまだ子どもが小さく、夜勤はできない。でも集まって何か地域のお手伝いがしたい…、そんな助産師が集まり、6年前にオープンさせました。ヨガやベビーマッサージ、乳離れ講座、夫立会出産クラスなど、様々な企画を開催しています。

「助産師は、お産だけじゃなく、“女性の生涯を見守れるパートナー”だと思うんです。現実は、『育児のすべてが喜び』なんてわけにはいかない。つらいこともたくさんあって当たり前。それでも、私たちのケアを通じて、『今までやってきたことは間違ってなかったんだ』と感じてもらえたら、うれしいですね」

 江坂さん自身が助産師になったのは、看護師の産科実習で、「感動した!」のがきっかけでした。現在は、3児のママとしても奮闘しています。

「上の双子が病院でしたが、下の妹の時、念願の自宅出産をしたんです。兄たちは未だに妹に、『お前はお尻から生まれてきた!』っていうんです。後ろから手伝ってもらったから、そう見えたんでしょうね〜(笑)」

「日本人は恥ずかしくて隠しがちですが、性教育の部分もオープンに語るようにしてます。まあ、思春期になって、どうなるかはわかりませんけどね!(笑)」

 と、明るく笑う江坂さん。たくさんの生を見守ってきたからこそ、自分自身も自然体でいられる。だから、ママたちも安心して本心をさらけ出せる。助産師のすごさの理由が、わかったような気がしました。

(平成26年9月3日)

産後の授乳から卒乳まで
おっぱいのケアと相談に応じる
SANGOさろん


赤ちゃんを愛しげに見つめる
ママたちのまなざしも
印象的でした


練馬高野台駅から徒歩3分。
アットホームな雰囲気の
ねりじょはうすLuna


各々独立して活躍する
助産師の集まり。
みなさんパワフル!
(写真提供:江坂さん)


産後1ヶ月未満の
早期訪問事業にも
力を入れています


ねりじょはうすLunaの通信に
翌月の予定が掲載されています


ハキハキしていて、
頼りがいある江坂さん。
「こんなママになりたい!」
と思う強さを感じました

プロフィール

江坂まやさん

江坂まやさん

1973年茨城県生まれ。公益社団法人東京都助産師会練馬地区分会助産師。高校時代、怪我で入院した兄に献身する看護師にあこがれ、東京の看護学校に入学。実習でお産に立ち会い、その母親から感謝されたことがきっかけで助産師を目指す。結婚後、練馬区へ。現在は9歳の双子の男児と、5歳の女の子、3児のママ。家では「コワイお母さん!」(笑)。仲間といっしょに、SANGOさろんや、助産所ねりじょはうすLunaに注力している。週1回、病院でのお産も手伝っている。SANGOさろんは、毎週火・金の定期開催(練馬区子育てスタート応援券の利用可)。練馬で好きな場所は、季節の移り変わりがわかる石神井公園。

練馬助産師会

助産所ねりじょはうすLuna 練馬区南田中3-8-28

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