特集記事 Reviews

#082 布絵(NUNOE)作家
水野 典子さん

切れ端の布でも特徴を活かし、
一枚の絵画をつくる楽しさ!


「NUNOE」とは、文字通り布の絵画。多彩な布を組み合わせ、1枚の絵に仕立てあげる、水野さん独自の手法です。絵の具とは違う布の素材感や立体感、配置の絶妙なバランス、パッチワークや刺繍の細やかさ、そして全体の世界観など…じいっと見入ってしまう、不思議な魅力にあふれています。

「厚い・薄い・透ける…布本来の風合いを活かしながら、自分なりの表現に仕上げていくのがおもしろいんです。変わった柄の布を見つけて、それが顔に見えたので、そこから発想を広げていったり。物語を作って、登場人物になりきるんです。四六時中、作品のことばかり考えていますね(笑)」

 と、上品に微笑む水野さん。「作家!」と肩肘張ったところは全くなく、あくまで「家を守る主婦」というスタンスを崩さずに、自由な作風を貫いてきました。

「きっかけは、娘2人が小さい頃、パッチワークが流行り始めたことです。お洋服にアップリケを付けたりと、自己流でアレンジしていたら、楽しくなって…。娘たちは、『みんなと同じがいい! キャラクター物がいい!』って、あんまり喜んでくれませんでしたけれど(笑)」

 親の愛は、なかなか子どもに伝わらないもの…。ちょっとせつない母心ですね。

「主人がサラリーマンなので、負担をかけないように節約の意味もあったんですよ。洋服の切れ端から主人のワイシャツまで、着られなくなったものを使うので、ほとんどお金をかけていませんでした(笑)」

 それが友人たちの間で評判となり、「教えて」と頼まれるままに教室を始め、生徒が増えていきました。多いときで、30人もいたそうです。

 転機となったのは、雑誌のコンクールでの受賞でした。それをきっかけに、小物づくりから、布絵づくりにシフトしていきました。

「思いつくままにどんどん作っています。デザインは大まかに考えますが、作りながら完成させていくんです。すごく楽しくて、1日中家にこもっても平気ですね。今は娘2人も巣立ち、仕事人間の主人も、ほとんど家にいませんから(笑)」



続けるのは“ただ、好きだから”
創作欲を支える家族の愛情


 物作りをしていたら、あっという間に時間が過ぎる…、そんな素質の下地は、小さい頃にできたものでした。

「小さい頃から、自己流で袋物を縫ったりして、縫い物は大好きだったんです。小学校で、図画工作の先生が美術の道をすすめてくれて、両親もその気になってしまって(笑)。それで中学から、美術系の学校に進みました。大学では織物を専攻したんですが、制約が多すぎて自由な作品が作れなかった…。それで、卒業してすぐ結婚しちゃったんですよ(笑)」

 流れる水のごとく自由に生きる水野さん。ご主人は、対照的な“企業戦士”。仕事であまり家にいないそうですが、だからこそ成り立っている夫婦関係があります。

「主人が家にいる時は作品を作らないようにするので、主人の場合、家にいないのが理解みたいなものですけど(笑)。でも、私の作品をすごく褒めてくれるんですよ。一言でおさまらないくらいに…、本当にホメ上手なんです」

 水野さんの布絵の特徴は、身の回りの日常風景を題材にしていること。その中には、サラリーマンを描いた作品が多くあります。もちろんモチーフは、ご主人。作品からは、ご主人への愛情がにじみ出ているようです。2012年に開いた個展では、多忙なご主人も、いろいろと尽力してくれたそうです。

 最後に、今後の展望を伺うと…。 

「気負うと自分らしさがなくなるので、今のペースでずっと作り続けていきたいですね。私はただ、作るのが大好き…それだけなんです」

 ひたすら「好き」を突き詰めて、自分だけの世界を切り拓いてきた水野さん。純粋だからこそ、彼女の布絵を見ると、ふんわり優しい気持ちになれるのかもしれません。

石神井川の桜並木を
モチーフにした作品。
他にも、地元・練馬を
描いた作品が多数


2011年11月に開催した
個展の様子。ご主人も
尽力してくれたそう
(写真提供:水野さん)


展覧会で出した作品集。
水野さんの作品100点
以上が詰まっている


2008年から現在も、
表紙を飾っている月刊誌
THEMIS(テーミス)


袋物など役立つ小物も!


気に入らない部分は
何度でもやり直して
必ず完成させる。
だから作品への
愛着もひとしお!


階段の壁や部屋に
たくさんの作品が展示。
ギャラリーのようです!


水野さんは、優しさと
しなやかさをあわせもつ
素敵なご婦人です!

プロフィール

水野 典子さん

水野 典子さん

東池袋生まれ。設計士の父親は手先が器用で、その影響か、物作りの得意な少女に育つ。教育大(現・筑波大)付属小学校時代、先生のすすめで、女子美術大学附属中学校へ進学。大学では、産業デザイン科工芸(織物)を専攻。卒業後、結婚。2人の娘を育てながら、自己流パッチワークや古着のリメイクに熱中する。1982年、雑誌のタペストリーコンクールに応募。「音楽」というテーマでクラシック音楽を趣味とする夫のために、オーケストラの図柄をワイシャツやブレザーなどの古着を使用して作った作品が入選。それをきっかけに「NUNOE」に目覚め、数々のコンクールで受賞。月刊『テーミス』の表紙は、担当して6年目になる。2012年11月、文春画廊で開催した個展「NUNOEの世界」は、新聞でも取り上げられた。練馬に住み始めたのは、15年前。練馬の風景も、布絵の題材になっている。練馬で好きな場所は広徳寺。愛犬をきっかけに、和尚とも顔なじみになった。夫婦そろっての趣味は、韓国ドラマ。

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