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#063 吉田園 庭師
吉田 洋恭さん

一本の木を美しく剪定する達成感

 生命力の強い松と竹でつくる日本の伝統・門松。年神を家に迎え入れるための依代(よりしろ)という意味があり、家や会社などの玄関に飾られます。庭師の吉田さんは、父親の代からお得意様の注文を受け、毎年門松を作り続けてきました。

 「竹を3本組んでバケツに入れ、泥で決め(固め)ます。周りに100本程の松をあわせて7段にそろえ、菰を一周させるのが『寄せ松』。石ブロックに松を一本ずつさし、木端を打ち込んで止めるのが『台松』。どちらも左右1対で作ります」

 門松は毎年注文される方、また家の建て替えなど吉事のあったときに注文する方もあります。作業は12月真ん中2週間位がピーク。本業の庭仕事から帰ってからの仕事なので、徹夜になることも…。クリスマスが終わる頃に配達を開始するので年末は大忙しです!

 「家業を継いだのは、3人兄弟の2番目で、誰も継がないというから、じゃあ自分がやろうかと…。高校生の時に決意して専門学校へ進みました。正直、庭師の仕事がこんなに大変とは思ってませんでした(苦笑)。毎朝6時起床で、8時から日が暮れるまで働きます。最近は海外から取り寄せた線路の枕木を、庭の仕切り塀などに使うことも多いです。古材で風情があっていいのですが、2メートルで80キロもあるの扱いが大変で…」

 作業着の上からもわかる屈強な体つきに、力仕事のご苦労が伺えます。でも、大変と言いつつも笑顔で話されるので、全然つらそうに見えない吉田さん。苦労に報いるだけの、やりがいがあるからでしょうか。

 「一本の木を剪定してキレイに仕上げるだけでも、達成感があります。さらにそれをお客様に喜んでもらえたら、何よりうれしいですね」

 仕事に対する真摯な姿勢は、休日でも変わりません。休みに街歩きしていても、つい庭に目がいってしまうそうです。

 「『この素材の使い方、今度アレンジしてみよう』など、よその庭のいいところを盗ませてもらってます。最近はアイビーを絡ませるなど、洋庭の注文も多いので、日々勉強ですね。自分の好みを押し付けるのではなく、お客様の要望に合ったものを作り、喜んでもらいたいんですよ。でも、おまかせという方もいるので、そこは臨機応変に対応します。その柔軟さは、頑固だった親父とは違うところじゃないかな(笑)」



親父と見る目が同じになってきた

 専門学校で造園の基礎を学んだあと、父親のもとで実践を学んだ吉田さん。父親は、いわゆる職人気質。何も教えず、「見て覚えろ」というタイプでした。

 「『学校出てるんだからできるだろ』って言われましたけど、最初は枝をどう切っていいかさえわからないんですよ。先輩の職人に聞いたりして、なんとか自分のものにしていったけど、やっぱり親父には聞きづらかったですね」

 ご自身を一人前だと感じたのは、何年目だったのでしょうか?

 「15年目ぐらいでしょうか。石を据えた時、親父が何も言わなかったんです。あっ、親父と同じ感覚になれたんだな、やっと一人前になれたかなと思いましたね。石にも正面があるんですが、最初はまったくわからない。経験を積んでわかってきました。木の剪定でも十人十色で正解はなく、そこが面白いところでもあるんですが、親父と見る目が同じだったとき、『合ってきたんだな』と、うれしくなりました」

 「今、自分が親方になりましたが、やっぱり親父のように、他の職人の動きに気を配るようになりました。弟も5年前から家業に参加してますが、『仕事の仕方が親父に似てる』って言われますね(苦笑)」

 父親でもあり親方でもある先代が、吉田さんの目標の一人なのかもしれません。ちなみに、田柄で生まれ育った吉田さんは、練馬にはどんな思い出があるのでしょうか?

 「グラントハイツが近かったので、フェンスを越えてもぐり込み、つかまって怒られたり(笑)。防空壕跡なのか、地下に入って遊んだこともありました。子どもには新鮮な場所で、楽しかったですね」

 練馬のヤンチャ少年も、今や立派な職人に。吉田さんが作った門松は、新年にふさわしく前向きな気持ちも一緒に届けてくれそうです! 北豊島園自動車学校や、杏林大学で門松を見ることができますよ。

(2011年12月28日更新)

松の枝を高さを合わせて
切りそろえる


3本の竹の周囲に
松を7段にして巻き付ける


縄で上5回、下7回巻いて
男結びで固定して
菰(こも)を締める


人の身長ほどの高さの
「寄せ松」が完成!
左右対称にそろえるのが
難しいそうです


「朴訥」という表現が
ぴったりの吉田さん


「台松」は個人のお宅で
よく使われます


腰道具は左から
折りたたみ式ノコギリ、
剪定鋏、木鋏。
そして、縄を通すくり針で
ほとんどの庭仕事をこなします


松ヤニで黒ずんだ指先と
骨ばった逞しい手に
“職人”を感じます

プロフィール

吉田 洋恭さん

吉田 洋恭さん

1969年、田柄に生まれ育つ。一級造園技能士。実家の「吉田園」を継ぐため、専門学校(造園緑地工学科)に入学。デッサンや図面の引き方、設計の基礎などを学ぶ。卒業後、父親のもとで修業。現在は二代目親方として、弟と二人で家業を支えている。練馬造園組合に入り、同業の人と接することで刺激を受け、向上心も高まったという。趣味はアウトドアで、ゴルフやジェットスキーもこなすスポーツマン。

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