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#054 「牧野記念庭園」相談員
臼井 克己さん
日本に数本しかない貴重な桜!
身にしみる寒さもひと段落し、お日様の下でのんびりお散歩したくなる季節が近づいてきました。そんな春の訪れを肌で実感できる「牧野記念庭園」を訪問。相談員の臼井さんにご登場頂きました!
牧野記念庭園は、日本の植物学の基礎を築いた偉人・牧野富太郎博士の居宅跡。今は区立庭園として、約340種もの草木の花が咲き誇ります。都会で生活していては絶対に見られない貴重な品種もたくさんあるそうです。
「牧野博士が命名した植物は1,500種以上と言われています。有名なところでは、けやき、金木犀、栴檀なども博士の命名なんですよ。中でも珍しいのは、3月末から咲き始める、仙台屋桜です。大正15年、博士が地元・高知から幼木を持ってきたのですが、親木が枯れたので、これが日本最古で、おそらく最大です。今や日本に数本しかない貴重な桜なんです。隣に植わっている染井吉野が徐々に仙台屋桜に近づいていくので、染井吉野には申し訳ないけど、仙台屋桜の影になる部分の枝は切らせてもらっています(苦笑)」
限られた光をどう活かし、どこにどう当てるかを考えるのも相談員のお仕事なんですね。他にも、庭園には珍しい桜が13種類もあります。
「2月下旬から濃いピンクの大寒桜の花が咲き始め、それから徐々に他の桜も開花し、4月頃まで楽しめます。ここの入り口にある大寒桜は、太陽光を求めるうちに自然と横倒しになっていったんですよ」
確かに、まるで来園者を迎えるアーチのようにしなる大寒桜。桜も人も、自分が望む方向に倒れていくんですね…。臼井さんも、やはり植物に関わることを望んで、この仕事を始めたのでしょうか?
「子どもの頃から植物には興味がありましたね。庭に山百合の球根を植えたり、種をいろいろ蒔いて育てたりしていました。実家は写真館で、植物とは関係ないのになぜでしょうね。大学で造園学科を専攻して、東京都の公園緑地部に就職。児童公園など、樹木を含めた公共造園施設に関わる仕事をしていました」
心に描いた風景を再現できる
1+1にならない造園の魅力
やはり子どもの頃から植物がお好きだったんですね。臼井さんにとって植物や造園の魅力とは、どんなところにあるのでしょうか?
「川の流れに紅葉が舞い散る…そんな自然の美しい風景や、自分が心に描いた景色を、人工的に再現できる。それが造園の面白さですね。もちろん、3本の木の配置は正三角形ではなく不等辺三角形にするなど、美しく見せるための基本形はあります。それでも、生け花のように、造る人によってまったく違う形ができあがるんですよ。1+1=2にならないのも、魅力の一つですね」
造園の話になると、目を輝かせて熱く語り始める臼井さん。そんな臼井さんと牧野博士の出会いは、大学生の頃だったそうです。
「世界的に有名な博士なので、同級生が『牧野植物同好会』に入会して採集に行ったりしていました。私は別の教授に習っていたので入らなかったのですが…今思えば、入っておけばよかったなあと(笑)」
「私が思う牧野博士は、天才と言われていますが“努力の人”ですね。小学校を中退しながら、独学で東大の博士号まで取った。学問の殿堂である東大でそこまで至るには、苦しい思いもたくさんあったはずです。それでも他人に頼らず研究を続けた博士は、本当の努力家ですね」
そう語る臼井さんも、筆者から見ればとても努力家! 来園者からは植物だけにとどまらず、昆虫や鳥など幅広い質問が来ます。日頃からアンテナを張って調べておき、わからないことは調べる努力を欠かさないそうです。インタビュー後、園内を案内してもらいましたが、その説明もとても熱心。臼井さんの日頃の勤勉さと、植物への愛が、ひしひしと伝わってきました。この優しい気遣いが、園内の植物を生き生きさせる秘訣なんですね!
(2011年3月1日更新)
プロフィール
臼井 克己さん
1934年、吉祥寺生まれ、実家は写真館。幼い頃から植物に興味を持って育つ。東京農大の付属高校を出て、農大の造園学科に進学。東京都の公園緑地部で定年まで勤め上げたのち、日比谷公園「緑の相談所」の相談員になる。牧野記念庭園ができる際に誘いを受け、平成15年から相談員を務めている。練馬区で好きなお店は、大泉学園の和菓子屋「大吾」の爾比久良(ちなみに、牧野富太郎博士も和菓子好きだったとか!)。