特集記事 Reviews

#051 「デンマークブローと」社長
井戸 啓介さん

体の中の科学への興味が
安全・安心の材料へのこだわりに

 冬です。練馬大根の美味しい季節です! というわけで、ねりコレにも認定されている「ねりまだいこん酵母パン」を開発した、デンマークの井戸社長をクローズアップ!

 「ねりまだいこん酵母パン開発のきっかけは、数年前。先代の社長だった父が、区民会議の場で『練馬大根でパンを作りたい!』と抱負を語ったんです。それで、言ったからには作らなくては、となり(笑)。まず、発酵食品関係の研究所で、表面の酵母を分離し、純粋な酵母を抽出してもらいました。その酵母に小麦と水を加え、常温で一晩寝かせ、また次の晩に小麦と水を入れて寝かせ…これを繰り返してタネを完成させました。タネは、少し使って残りを増やし、また少し使って、という形で保存し続けています」

 秘伝のタレを継ぎ足し続ける料理屋の話はよく聞きますが、パンの酵母も同じなんですね!

 「天然酵母のよさは、酵母さえしっかりしていれば味が安定すること。そして、添加物を加えるよりは、体にいいだろうことです。ねりまだいこん酵母パンは、純粋な酵母だけを使っているので、クセがなく、ピュアですっきりとした味わいが特徴ですね」

 実際筆者も試食したところ…ふんわり柔らか、それでいて深みもあり、バターなしでもパクパクと手が止まらない! 他にもデンマークでは、小麦粉や生クリーム、ショートニングなど、各材料でも体にいいものにこだわっているそうです。

 「安全・安心な材料であることは、店のスローガンとしてずっと取り組んできました。私は以前から体の中の科学に興味があったので、店長になってからはその方面も本格的に研究しています。実はパン屋になる前は全く違う仕事で、医療機器メーカーで研究開発をしていたんですよ」



昔からパンが大好き!
自らパン屋に通った少年時代

 医療機器メーカーから、なぜパンの道に入ることになったのでしょうか?

 「祖父の代からパン屋の家系なのですが、家と工場が遠かったのもあり、毎日パンづくしという生活ではなかったんです。でも昔からなぜかパンが大好きで。自ら近所のパン屋に通い、あんドーナツの焼き上がりを待ち構えたりしてました(笑)。でも興味はあっても、店を継ぐ気はなかったんです。それがある日、父から『この先生からパンを習ってみないか?』と修業を勧められて。迷って妻に相談したところ、『実は私もね、子供の頃、パン屋になるのが夢だった』と! それで決心がつき妻と一緒に1年間の見習い修業に出ることになりました」

 なんだかドラマチックな展開ですね! その見習い期間では、何を学びましたか?

 「パン作りの修業時代には2人の師匠にお世話になりました。一人はパン作りから経営のことまで教えていただき、人間的にも魅力のある修業先の社長。事務所がバッティングセンターの跡地という、変わった社長でもありました(笑)。そしてもう一人は、80歳という年齢を感じさせない研究熱心な先生でした。材料にもこだわり、グルテンの組成がどうの、甘塩のマグネシウムがどう影響するの…その研究がすごくおもしろくて、自然とパン屋になる決心がついたんです」

 修業後、デンマークに戻って製造や販売などの各部署をまわり、社長に就任した井戸さん。

 「お客様から言われてうれしいのは、やっぱり『おいしい』の一言。『いつも買ってる』『機械で作ったものとは全然違う』と言ってもらえるのも喜びです。今後ももっと、『いつ来てもどのパンを食べてもおいしい』という、基本的なことがきちんとできるお店にしていきたいですね!」

 ちなみに、3児の父でもある井戸さんですが、お子さんもやっぱりパン好きですか!?

 「小3の長男の夢はプロ野球選手です。『プロになって30歳で引退。それからパン屋になる!』と言ってます…うまくいくかは別問題ですが(笑)。それにしても考えてみれば、子供の頃研究開発が夢だった私は、医療機器会社で開発に携わった。そしてパン屋になった今も、新商品という開発をしている。遠回りをしながらでも、夢はかなっているのかもしれませんね」

 道のりはまっすぐじゃなくても、「研究開発、パン」という好きな道に引き寄せられてきた井戸さん。好きなことには自然と関れるもの…井戸さんのお話を伺っていると、運命の不思議な力を感じずにはいられません。


 

(2010年12月1日更新)


ねりまだいこん酵母食パン。
食パン以外にもメロンパンなど
ねりまだいこん酵母は使用される


デンマーク・練馬店の店内。
焼きたてのパンがずらりと並ぶ


2階はイートインの
レストランに


ねりまだいこん酵母食パンが
「パングランプリ東京」の
大会会長賞を受賞!


看板にあるとおり、
デンマークは
創業1934年という老舗!


練馬店の店頭の木は、
1本は姫林檎、1本はオリーブ。
小さな実から季節を感じます


「喫茶室に来ると1日が終わった
と思える、と言うお客様もいて
うれしい」と温和に微笑む井戸さん

プロフィール

井戸 啓介さん

井戸 啓介さん

1970年、練馬区生まれ。祖父がデンマークの創業者、父親が4代目社長という環境で育つ。早稲田大学大学院卒。医療機器メーカーに約4年勤めたのち、父親の勧めにより、二人の師匠のもとでパン作りの基礎を学ぶ。1年後、デンマークに就職。2005年、6代目社長に就任した。練馬で好きな場所は大泉中央公園。好きなお店は、練馬の鳥ふじ。「毎年子供の誕生日に、土瓶蒸しで贅沢をするのが恒例」という優しい3児のパパでもある。

デンマークブロート
http://www.denmark.co.jp/

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