#049 陶芸家
鴨下 知美さん
公開:2010.10.01
灯油窯だから出会える
思いがけない色の味わい
厳しかった練馬の夏もようやく姿を潜め、やって来たのは読書の秋、食欲の秋、そして芸術の秋! 芸術の秋にちなみ、三原台に工房を構える陶芸作家・鴨下さんに登場していただきました。
鴨下さんは、陶芸教室の講師を務めつつ、年に1~2回のペースで個展を開く気鋭の若手作家。教室では、小学生からベテランまで幅広い生徒を相手に基礎を教えながら、希望に沿ったアドバイスを行っています。
「仕上がる色は釉薬のかけ方で変わるのですが、釉薬が少ないと色が薄くなる。それを失敗と言う生徒さんもいますが、私はそれはそれで面白い色だと思うんです。生徒さんの作品を見るのも勉強になるんです。色は、窯出しまでどうなるかわかりません。『こんな色になったんだ!』と、思いがけない感動がある。それが窯出しの醍醐味ですね」
講師を勤める一方で、個展への準備にも忙しい鴨下さん。形作り、乾燥、素焼き、色付けなど、すべての工程を終えるまでに、なんと1か月半! 出品までに半年は必要という、孤独で地道な作業が続きます。それが苦にならないのが、アーティストの素質なのかもしれません。
「この世界に入った頃、先輩に『焼きが大切』と教わったんです。それぐらい、焼きが一番難しい。私は灯油窯を使っているのですが、これは安定しないタイプの窯なんです(笑)。だから一回一回違うものが出来上がる。でもそれが面白いんです。陶芸教室では一般的に、温度管理がしやすい電気窯を使います。電気だと、確かに思い通りの色は出るんですが、私は意外性のある灯油窯のほうが好きなんです」
お客様とのやりとりの中で
教えられる意外なアイディア
無難や安定を求めるより、意外性が欲しい。そんな冒険家(!?)の鴨下さんが陶芸と出会ったのは、大学生の時でした。
「高校生の時に油絵を始めたのがきっかけで美大に進みました。陶芸に出会ったのは大学の授業です。もともと立体に興味があって、陶芸は表現したいものにピッタリだと直感したんです。そのうち、ご近所さんから『こんな食器を作って』と頼まれるようになり、今はウツワ作りが中心になっています。個展にいらしたお客様からオーダーを頂くこともあるのですが、私の中にはない発想が多く、ハッとさせられますね」
そうして作った作品は、酒好きにはたまらない片口&お猪口、たかつき(脚付き盛り皿)など、量販店では見かけない個性あふれる食器の数々。お寿司屋さんからのオーダーで、ブロック型の変わった寿司皿を作ったこともあるそうです。
「試作品を作り、それを見てもらって…と、お客様とやりとりしつつ作っていきます。オーダー通りに仕上がらなくても、『これも面白いね』と受け入れてくださる寛大な方が多いので助かります(笑)。納品した作品を、時間が経ってから見せてもらうこともあるのですが、日々使われてきた食器は、また違う艶感になっているんです。私が考えていたのとは違う使われ方をしているのも面白い。日常に使われるウツワならではの発見があるんです」
「これはこうじゃなきゃダメ」と決め付けるのではなく、「これも面白い」と、別の角度から魅力を発見できる。そんな彼女だからこそ、周りに集う人々も寛大になれるのかもしれません。
「仕上がった作品は、できるだけ手渡しでお届けにあがります。その場で確認して頂きたいし、なによりお客様の反応を見たいから。練馬では、地元のつながりで、石神井の雑貨店・クヌルプに作品を置いて頂いています。もともと食器好きの母が通っていたお店だったんですが、私も行くようになったのがお付き合いの始まりでした」
秋に発行の「チャリまっぷ」には、クヌルプの場所とともに、鴨下さんのイラストも掲載されています。芸術の秋とスポーツの秋を兼ねて、チャリまっぷを片手に自転車で石神井公園へ出かけ、陶芸作品を眺める。そんな秋の過ごし方はいかがですか?
思いがけない色の味わい
厳しかった練馬の夏もようやく姿を潜め、やって来たのは読書の秋、食欲の秋、そして芸術の秋! 芸術の秋にちなみ、三原台に工房を構える陶芸作家・鴨下さんに登場していただきました。
鴨下さんは、陶芸教室の講師を務めつつ、年に1~2回のペースで個展を開く気鋭の若手作家。教室では、小学生からベテランまで幅広い生徒を相手に基礎を教えながら、希望に沿ったアドバイスを行っています。
「仕上がる色は釉薬のかけ方で変わるのですが、釉薬が少ないと色が薄くなる。それを失敗と言う生徒さんもいますが、私はそれはそれで面白い色だと思うんです。生徒さんの作品を見るのも勉強になるんです。色は、窯出しまでどうなるかわかりません。『こんな色になったんだ!』と、思いがけない感動がある。それが窯出しの醍醐味ですね」
講師を勤める一方で、個展への準備にも忙しい鴨下さん。形作り、乾燥、素焼き、色付けなど、すべての工程を終えるまでに、なんと1か月半! 出品までに半年は必要という、孤独で地道な作業が続きます。それが苦にならないのが、アーティストの素質なのかもしれません。
「この世界に入った頃、先輩に『焼きが大切』と教わったんです。それぐらい、焼きが一番難しい。私は灯油窯を使っているのですが、これは安定しないタイプの窯なんです(笑)。だから一回一回違うものが出来上がる。でもそれが面白いんです。陶芸教室では一般的に、温度管理がしやすい電気窯を使います。電気だと、確かに思い通りの色は出るんですが、私は意外性のある灯油窯のほうが好きなんです」
お客様とのやりとりの中で
教えられる意外なアイディア
無難や安定を求めるより、意外性が欲しい。そんな冒険家(!?)の鴨下さんが陶芸と出会ったのは、大学生の時でした。
「高校生の時に油絵を始めたのがきっかけで美大に進みました。陶芸に出会ったのは大学の授業です。もともと立体に興味があって、陶芸は表現したいものにピッタリだと直感したんです。そのうち、ご近所さんから『こんな食器を作って』と頼まれるようになり、今はウツワ作りが中心になっています。個展にいらしたお客様からオーダーを頂くこともあるのですが、私の中にはない発想が多く、ハッとさせられますね」
そうして作った作品は、酒好きにはたまらない片口&お猪口、たかつき(脚付き盛り皿)など、量販店では見かけない個性あふれる食器の数々。お寿司屋さんからのオーダーで、ブロック型の変わった寿司皿を作ったこともあるそうです。
「試作品を作り、それを見てもらって…と、お客様とやりとりしつつ作っていきます。オーダー通りに仕上がらなくても、『これも面白いね』と受け入れてくださる寛大な方が多いので助かります(笑)。納品した作品を、時間が経ってから見せてもらうこともあるのですが、日々使われてきた食器は、また違う艶感になっているんです。私が考えていたのとは違う使われ方をしているのも面白い。日常に使われるウツワならではの発見があるんです」
「これはこうじゃなきゃダメ」と決め付けるのではなく、「これも面白い」と、別の角度から魅力を発見できる。そんな彼女だからこそ、周りに集う人々も寛大になれるのかもしれません。
「仕上がった作品は、できるだけ手渡しでお届けにあがります。その場で確認して頂きたいし、なによりお客様の反応を見たいから。練馬では、地元のつながりで、石神井の雑貨店・クヌルプに作品を置いて頂いています。もともと食器好きの母が通っていたお店だったんですが、私も行くようになったのがお付き合いの始まりでした」
秋に発行の「チャリまっぷ」には、クヌルプの場所とともに、鴨下さんのイラストも掲載されています。芸術の秋とスポーツの秋を兼ねて、チャリまっぷを片手に自転車で石神井公園へ出かけ、陶芸作品を眺める。そんな秋の過ごし方はいかがですか?
(2010年10月1日更新)
様々な釉薬が並ぶ棚。
出したい色に応じた釉薬を使う
片口のウツワは、
注ぎ口がポイント。
酒好きのお客様からの
オーダーが多いという
シャープな形状が珍しい丼。
ラーメンでも蕎麦でも
何を入れてもオシャレ!
煙突があるため、設置場所に
制限がある灯油窯。
温度は一気に上がらず、
1時間に約100度ずつ。
ひたすら待ちの作業が続く
窯があるのは築100年近い
元精米所。
古い梁や歯車が懐かしい雰囲気
実家には食器好きの
お母さんが集めた
様々な食器がある。
その影響で他作家の
展覧会に行ったりと、
新たな縁が生まれるそう
ヒビや歪みがあり
納品できないものを
捨てずに家で使っている
個展用の作品。
日常使いを考えて、
使いやすさも重視している
「気ままな秋のチャリまっぷ」表紙
練馬区で生まれ育つ。女子美術大学工芸科陶芸専攻を卒業。講師のかたわら、個展を開いている。実家は100年以上も続く老舗の米穀店。かつての精米所に窯を置き、製作に励む日々。練馬で好きなお店は南蔵院近くの「玄蕎麦 野中」。お蕎麦はもちろん、だし巻き卵とそばスイーツも絶品! 西洋の磁器にお蕎麦を盛るなど、ウツワ使いのセンスも参考になるとのこと。