特集記事 Reviews

#032 (株)アートランド代表取締役
石黒 昇さん

ダム建設がつなぐ日台交流
映画「パッテンライ!!」封切


 5月8日(金)、練馬区富士見台に本社を構える虫プロダクション(以下、虫プロ)から、長編アニメーション映画『パッテンライ!!』が封切られます。この映画は、日本領時代の台湾で、八田與一(はったよいち)という一人の日本人技術者が強い信念のもとにダムの建設を完遂したという実話に基づいた力作!
 上映に先立ち、監督の石黒昇さんに映画への思いなどをお聞きしました。

 『パッテンライ!!』とはどんな意味なのでしょうか。
 「台湾語で『八田來』と書いて『パッテンライ!!』と読みます。主人公の八田與一のことを指して『八田が来た!!』という意味。最初は真面目なタイトルがついていたのですが、もっとインパクトのあるものにしたくて、私がこのタイトルに変えて貰いました(笑)」

 ズバリ、この映画の見どころを教えてください。
 「昭和初期、『人のために』ダムをつくろうという、純粋な情熱をもってやり遂げた日本人がいた! この事実をまず伝えたいですね。昔は人間が単純といいますか、好き嫌いもはっきりとして素直でした。実際、台湾の人々も最初は八田氏のことを警戒していたのですが、彼の本気の熱意と誠意によって突き動かされ、「パッテンライ」と呼び方も嫌悪の響きから次第にあたたかいものに変わっていったのです。また、成功するかどうかも分からない壮大な計画に、予算を出した日本政府の英断もすばらしいと感じています!」



「練馬の不夜城」で
アニメの基礎を学んだ


 『パッテンライ!!』試写会では、会場からはすすり泣く声もあるほど、熱いものが伝わってきました。長編アニメに魂を吹き込む作業は決して容易ではないと思いますが、石黒監督がアニメや映画の世界に入ったきっかけを教えてください。

 「私は漫画と映画が大好きで、それが高じて日大藝術学部の映画学科へ7年も通いましてね(笑)。手塚治虫先生のファンだったので、虫プロへは在学中から週に1~2回遊びに行っていました。当時の富士見台は、一面のキャベツ畑! 周りは何もなくて、遠くまで見渡せました。虫プロではヒット作『鉄腕アトム』制作のため、300人ものアニメーターが24時間体制で働いていたので、そこだけが夜でも明るく『練馬の不夜城』なんて呼ばれていましたよ」
 当時映画界は斜陽の時代を迎えて就職難でしたが、アニメ界だけは例外だったそうです。石黒監督は卒業後に『鉄腕アトム』制作の下請け会社に就職を決めました。

 「今思えば、とてもタイミングに恵まれていましたね。その頃は週にテレビアニメ1本というハイペースで仕事をこなしていましたから、どうやったら早くできるかという、質を落とさず手を抜く知恵も働いた(笑)。それが睡眠時間の確保に直結するから真剣ですよ。たとえば、タバコの煙が揺れている状況をそのままセル画にしたらたいへんな作業量ですが、私たちは『波ガラス』といって、波打ったガラスをカメラのレンズの前で動かし、空気が揺れている質感を出しました」
 この手法は日本のテレビアニメの基本技法として、現在も受け継がれているそうです。



過熱したアニメ談義は、
作品に昇華する!


 「数年後、貫井に自分のスタジオを構えて制作するようになったのですが、富士見台と同じく周りには何もなく夜は真っ暗。当時はコンビニがないから、夜中まで仕事をしているとお腹が空いちゃうわけ。それでどうしたかというと、キャベツ畑へ(笑)。『今日はビフテキが食べたいな』なんて言うとスタッフが徒党を組んで牛がいる農家へ…」
 ウソのようなホントの話? ホントのようなジョーク? キャベツのくだりまではどうやら真実のようです(笑)。

 「仲間とは毎晩酒盛りをしてね。そのうちに誰かが必ずと言っていいほどなぐり合いのケンカを始めるんですが、いい作品ができればそれで水に流せるんですよ。『ものづくり』とは計算で成り立つものではなく、結局、汗と涙、熱い思いがあってこそできるもの。今の若手アニメーターには少し温度が足りないと感じることもありますよ」
 この道一筋45年の石黒監督から、止めどなく溢れ出す言葉。その端々には『パッテンライ!!』に込められた数々のこだわりやアツさ!が伝わってきました。

 5月8日、シネマート新宿にてロードショーの『パッテンライ!!』は、史実に基づいたリアリティと、アニメ技術を駆使した映像の美しさ、また根底に流れる人間の信念や、人々の心の交流など温かさを感じられる作品です。

(2009年4月28日更新)


©パッテンライ!!製作委員会
北國新聞社・虫プロダクション


©パッテンライ!!製作委員会
北國新聞社・虫プロダクション


昔の武勇伝を話すときの石黒監督は
ちょっといたずらな表情に。


株式会社アートランドの会議室。
さすが! 作品のマンガ・DVDや
フィギュアなど天井まで
積み上げられています。


2007年1月の
©パッテンライ!!製作委員会
北國新聞社・虫プロダクション

少年・英哲は土木技師に、
ススムは飛行機乗りになりたいと
夢を語り合う。
ひたむきに人生を切り拓くことの
素晴らしさもこの映画に
盛り込まれています。

プロフィール

石黒 昇さん

石黒 昇さん

1938年東京生まれ。日本大学藝術学部映画学科卒業。アニメーションの企画・製作会社(株)アートランドの代表取締役。練馬区で思い出の場所は、アニメーター時代に初めてピザの味を知った千川通りのレストラン。

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