特集記事 Reviews

#025 武蔵野音楽大学教授
佐野 悦郎さん

地域とクラシック音楽との
架け橋として


 地元の人に愛されて8年、江古田駅北口商店会「ファミリーコンサート」が、今年も10月3日(金)に開催されます。場所は江古田斎場。日頃は厳粛な雰囲気に包まれた場所も、この日ばかりは老若男女を問わず楽しめるホールに変身します。今回は、武蔵野音楽大学で教鞭をとる傍ら、数日後に迫ったコンサートの準備に尽力されている佐野悦郎先生にお話をうかがいました。

 「いまは江古田斎場が会場として定着していますが、地域活性化を目指して始まった2001年当初は、浅間湯という銭湯の2階が会場でした。ここは以前、武蔵大学の落語研究会も文化祭で寄席を行ったりしていましたね。その後、もっとクラシック音楽を身近に感じてほしいという大学側の思いと、せっかく斎場という立派なセレモニーホールがあるのだから地域活性化に活用したいという商店会の思いがつながって、2003年から今の会場になりました。以来、教鞭をとる傍らですが、私も担当として関わっています」



江古田に学び、江古田で教え

 演奏するのは、もちろん武蔵野音大の学生さん。武蔵野音楽大学が企画した大小さまざまな演奏会や公開講座のスケジュール表はびっしりうまっていて、年間120回以上も! 音大の入間キャンパスや江古田キャンパス内のホールで開催されるものが大半ですが、主要な定期演奏会などは東京オペラシティ、サントリーホールなどの本格的なコンサートホールで開催されます。高度な演奏技術を身につけようと日々研鑽し、各年の実技試験やオーディションを受けて本番での場数を踏みながら強くなっていくとのこと。

 「自分の将来を見据えて強い精神力を持ち、演奏会の大きい、小さいに関係なく大事にやっていかないと、自分にしわ寄せが来るんですよ」と佐野先生。「でもファミリーコンサートでは、ポピュラーな曲を含めて演奏します。それに地元江古田という安心感もあり、演奏する学生たちもリラックスして楽しんでいるようですよ」
今年はめったに聴く機会のないオペラあり、なつかしのメロディーありと、趣向を変えて楽しませてくれそうです! 

 武蔵野音楽大学は、「音楽芸術の研鑽」と「人間形成」という2つの柱を教育方針として、1929年に武蔵野音楽学校の名称で創立されました。ご自身も本学の卒業生。専攻はフルートだという佐野先生に、音楽の道を選んだきっかけをお聞きしました。
 「戦後の混乱期で、音楽を学ぶ環境は整っていませんでしたが、中学生のころに笛の響きに心ひかれてね…」独学で技術を磨き、後にいい師にめぐり会えて今日に至るそうです。今度はご自身が学生の指導をされるのも、めぐり合わせなのでしょうか。

 「毎年、秋のミューズフェスティヴァル(学園祭)では、学生が音楽パレード(仮装行列)をして、江古田駅周辺の通りを沸かせています。あの、コスプレというんですか? 学生としていかがなものか」と苦笑いをする先生ですが、学生に向けるまなざしは厳しくもやさしいのでした。



演奏は、スポーツに似ている!?


 そんなご多忙な日々の中でも、ご自身のフルート室内楽のリサイタルに向け、時間を割いて練習されているそうです。指導者でありながら、一人のアーティストとしての活動を忘れない。素晴らしいですね!
 「練習が足りないと、私だって緊張しますよ(笑)。でも、どんなに練習しても本番は何があるか分からない。北京オリンピックでも一流の陸上選手がバトンを落としたり、体操の選手が吊り輪から落ちたりしたでしょう。瞬間的に何が起きるか分からない怖さは、スポーツに似ているかもしれませんね」
 とはいえ「私はあくまで大学の一員ですから」と、どこまでも控えめな佐野先生です。

 静岡県に生まれ、「富士を見て育った」佐野先生は、「江古田は第二の故郷」だと言います。お気に入りの場所は浅間神社の「富士塚」。歴史の重みを感じる場所が好きで、日本各地を旅しているそうです。また、春には鳥がさえずり、夏には蝉が鳴く…、練馬の自然豊かなオアシス「千川通りの並木」もあげられました。江古田を知り尽くした先生ならではの詩的なセレクトでした(笑)。

(2008年10月1日更新)


ファミリーコンサート開始前に、
曲や楽器の解説をする佐野先生
(2007年)


幅広い年齢層が集まりました。
演奏を待ちわびて、
子どもたちはソワソワ(2007年)


学生さんも、この日はリラックスして
演奏できます(2007年)


赤ちゃん連れのお母さんも
聴きに行ける親しみやすさが魅力!
 最後に会場の全員で
合唱しました。(2007年)


教え子の話になると、
自然と表情もやわらかに


学園祭のお楽しみ、音楽パレード。
コスプレしても品格漂うのは、
音大生だから?(笑) (2007年)


音大通り沿いの緑地で行われた
「北口まつり」。こちらも商店街と
タイアップ企画!(2007年)
ビールケースに段ボールを敷いた
即席椅子。それでもステキな
コンサート会場!(2007年)

プロフィール

佐野 悦郎さん

佐野 悦郎さん

1946年、静岡県出身。武蔵野音楽大学卒業、同専攻科修了(専攻フルート)。武蔵野音楽大学教授、演奏部参与(地域連携事業担当)、日本フルート協会常任理事(学術研究部長)。
長年にわたり「東京フルート・アンサンブル・アカデミー」にてLP・CDをリリースし、フルート・アンサンブルの普及に貢献。また自ら主宰する室内楽団体で、定期的に演奏活動を行っている。
※今年は10月23日(木) 東京オペラシティ・リサイタルホールにて、《リサイタル&フルート室内楽》開催予定。

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