初の王位防衛戦
羽生名人の胸を借りるつもりで

　プロ棋士の登場です！　将棋のタイトル戦は、歴史の古い順から名人戦・王将戦・王位戦・棋聖戦・棋王戦・王座戦・竜王戦の７つ。深浦康市王位は2007年の第48期王位戦で、過去に七冠独占の偉業を成し遂げた羽生善治名人から見事王位タイトルを勝ち取りました。現在、初の防衛をかけて、第49期王位戦で熱戦を繰り広げています。７月から９月の間に七番勝負、先に四局勝った方がタイトルを獲得します。そんな緊張の続く中、お話をうかがいました。

　神経を研ぎ澄ますお仕事だけに、集中と緊張の面持ちを想像していたら、さわやかで優しそうな深浦王位でホッとしました。まずは防衛戦の意気込みをお願いします！
「緊張もしていますが、何しろ相手が難攻不落の羽生善治名人ですから（笑）、胸を借りるつもりで思いきり戦います」

　8月6日・7日に故郷の長崎県佐世保市で行われた第四局では、三勝一敗と王手をかけましたが、8月26日・27日に徳島県で行われた第五局では熱戦の末惜敗。三勝二敗と手に汗握る展開になってきました。

　特に印象深い一局はありますか？
「昨年の、忘れもしない9月26日。王位タイトルをかけ、神奈川県の鶴巻温泉『陣屋』で行われた羽生名人との対局です。私は挑戦者だったのですが、七番勝負の七局目、三勝三敗で非常に苦しい展開でした。追い込まれ、いよいよ負けるか…と思った瞬間にひらめいたのが『７七桂』。これが必殺の一手となりました。羽生名人は『こう出るか!?』と思われたでしょう。生涯忘れることはできませんね」

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おとなしかった少年が、
筋金入りの勝負士に!?

　いつ頃から将棋を始められたのですか？
「小学１年の頃からです。内向的でなかなか友だちができない性格を、父が心配して将棋の世界に誘ってくれたのです。上手になるにつれ面白くなり、大会にも出るようになりました。そこで大人を負かすと『深浦くん、強いな～』と言われる。痛快でしたね！」

　小学６年でプロを志すようになった深浦少年は、わずか12歳で九州から単身上京！　ご親戚の家に３年間居候したそうです。
「その家には、同年代の子どもがいました。ただでさえ大変なのに、私のような近くもない親戚の子をよくあずかってくれました（笑）」

　修業のためとはいえ、親御さんがよく許してくださいましたね。
「言い出したらきかないことをわかっていたのでしょう。実家は居酒屋なので、本当は私に継いでほしかったと思います。でも気持ちよく送り出してくれた。今でも感謝しています」
　おとなしい？　気が弱い？　いいえ、内に秘めた「勝負魂」をお父さまが上手に引き出してくださったのですね。

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将棋の魅力を伝え、
故郷に恩返しをしたい

　将棋の魅力は、ズバリ何ですか。
「年齢に関係なく、その時どきのレベルに応じて楽しめることですね。私も初心者だった頃は駒集めをして遊んでいました。レベルが上がるにつれ、好敵手を見つけて対戦したくなってきます」

　さらに、「将棋には定跡といって、一連の型のようなものがあります。先人の棋譜が最善としながらも、対局中に追い込まれたとき、背水の陣からまったく新しい手がひらめくことがあります。前人未到のルートを見つけたようで、将棋にもまだ新しい広がりがあるんだ！と新鮮な喜びがあります」
　将棋の魅力は奥深く、語れば尽きることはなさそうです。

　東京を拠点とするプロ棋士が圧倒的に多い中、地方出身者にもっと活躍してほしいと願う深浦さん。その土壌の一つとして、５年前に朝日オープンの優勝賞金の一部を佐世保市の将棋界に寄付し、子どもたちが無料で指せる将棋教室を開いたそうです。その名も「深浦塾」。帰省したときは王位みずから指導対局するとか。すばらしい地元貢献ですね！

　練馬区でお気に入りの場所をたずねると、
「緑の多い光が丘公園。結婚前から近くに住んでいました」とのお返事が。またお祭りが好きで、お子さまを連れて照姫まつりや酉の市などにも出かける、子煩悩なパパでもあります（笑）！

　しかし将棋の話になると表情は一変。
「数を競う囲碁と異なり、将棋はゼロか100の世界。生きるか死ぬかの、まさに戦国武将のような気持ちになる」と言います。

　そんなタフな男の勝負、王位戦第六局は９月9日・10日、思い出深い神奈川県の陣屋で行われます。武者震いするような攻防戦となりそうですね。応援しています！

(2008年9月1日更新）