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NHK連続テレビ小説「らんまん」、いよいよクライマックス!  牧野富太郎博士の生きた証は今も「牧野記念庭園」に息づいています 画像

ライター:協同クリエイティブ さん コラム

NHK連続テレビ小説「らんまん」、いよいよクライマックス! 牧野富太郎博士の生きた証は今も「牧野記念庭園」に息づいています


NHK連続テレビ小説「らんまん」は令和5年(2023年)9月29日で最終回。毎朝、万太郎や寿恵子をはじめとした登場人物たちと会えなくなるのはさみしい…と感じている方も多いのでは? 今から“らんまんロス”の予感…。練馬区には、ドラマのモデルとなった牧野富太郎博士が晩年の約30年を過ごした家があり、その跡地は「牧野記念庭園」として公開されています。庭園を訪れて、博士の在りし日の姿に思いを馳せてみませんか?

まずは、博士の胸像とスエコザサにご挨拶

牧野富太郎博士(以下、博士)が練馬区東大泉(当時は東京府北豊島郡大泉町)に居を構えたのは大正15年(1926年)。先の関東大震災をきっかけに郊外に移り住んだのが、現在まで牧野記念庭園として残る場所でした。

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博士の胸像とスエコザサ。牧野記念庭園は「らんまん」効果で連日にぎわい、前年の5倍の来場者数を記録した月もあります

転居に際し尽力した壽衛さんでしたが、彼女がここ東大泉で暮らしたのはわずか2年。昭和3年(1928年)2月に病で亡くなります。壽衛さんが重態の時、仙台から持ち帰った新種の笹に、博士は感謝を込めて「スエコザサ」と命名しました。園内にある博士の胸像の周りに、風が吹くとサヤサヤと音が聞こえるほど繁茂しています。まるで、亡くなってからも夫婦で会話をしているようです。

博士がそこにいるかのよう! カラフルな繇條書屋

博士の書斎「繇條書屋(ようじょうしょおく)」が今年の4月にリニューアル。繇條書屋とは、「草や木が伸び茂る書斎」を意味します。以前は建物のみの展示でしたが、書斎と書庫の内部を博士が94歳で亡くなるまで使っていた当時の様子に、約1年間をかけて再現しました。

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「繇條書屋」の額は、博士が尊敬していた伊藤圭介先生の書

書斎にいる博士の絵を描いた画家の榑松(くれまつ)正利さんは、「書斎の中で動き回る白髪の博士を、原色の海を舞う『白銀の蝶』のようだった」と表しました。


その世界観を再現したのは高知県在住の展示デザイナー、里見和彦さんです。高知県立牧野植物園の協力を得て、牧野博士の蔵書の撮影などを行い、約3,200冊のレプリカを作成しました。うち約220冊は色数を増やすために、なんと手描きで作られたものです。

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書棚に並べられた本は赤、青、黄…思った以上にカラフル!博士の白髪が美しく映える様子が想像できます

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机の上に置かれた博士の愛用品


牧野記念庭園の学芸員であり、博士のひ孫でもある牧野一浡(かずおき)さん(以下、牧野さん)にも、博士のエピソードを尋ねてみました。

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学芸員の牧野さん


 


「この書斎を再現するにあたり、写真に基づいて実物と照らし合わせて愛用品を揃えました。昭和20年代のもので、ほとんどが生産終了しているのでオークションも利用しました。ヤマト糊やパイロット万年筆など、メーカーさんに譲っていただいたものもあります。個人の収集家の方のご協力もいただきました」


まだ集めたいものがあるという牧野さん。10歳までの幼少期を、牧野さんは博士と共に暮らしました。実際に間近で博士を見ていた牧野さんが細部までこだわることで、博士の息づかいが感じられるような展示になっているんですね。


ちょうど書屋展示室の隣にある自動車教習所の場所に家があり、書斎と隣り合っていました。牧野さんは廊下を渡って、


「ごはんですよ」と博士を呼びに行く役割をしていたそうです。

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看板に描かれている猫は「チーコ」。当時は近所の猫が出入り自由で、博士はどの猫にも「チーコ」と呼んで、エサをあげていたそう

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当時の敷地内のジオラマ


 


「大正15年(1926年)に建てた家は、本の重みが原因で老朽化し、昭和26年(1951年)に終の棲家となる新しい家を敷地内に建てました。その家で富太郎が昭和32年(1957年)に亡くなるまで、一緒に暮らしました。富太郎は生涯研究者。この書斎の机に向かった後ろ姿が、私にとって富太郎のすべてです」


庭で遊ぶ幼少期の牧野さんを、静かに見守っていたという博士。大切にしていた植物が育つ庭ですが「そこに入ってはダメ」「その木に登ってはダメ」、そんなことは一切言われなかったそうです。

次女 鶴代さんの回想から、博士の愛用品に思いを馳せる

晩年の博士のお世話をしたのは、次女 鶴代さんでした。鶴代さんによる父 富太郎についての回想は書籍にも残され、博士の素顔を垣間見ることができます。


・・・父は、自分の持っているものに対する愛着が非常に強い人で、ペンとかハサミ、それから植物を掘ります根掘りなど、自分の使っているものに対する愛着は大変なものです。六十五、六歳の頃だと思いますが、湘南方面に採集に行った事がありました。その時剪定バサミと根掘りを持っていったんですが夜遅く帰ってきて押葉をしようとしましたら、剪定バサミと根掘りを落としてきた事に気がついたのです。確かに鎌倉より先の山で、名前は忘れましたが、そこで自分が植物をとって、ハサミで切ったのを覚えていたらしいのです。どうしてもその晩ハサミを置いてきた事が、気になって、気になって仕方がないのです。そこで夜明けが待ちきれず、暗いうちに起きて、また汽車に乗って、自分が採集したところを探して歩き、ハサミを見つけて持って帰ってきたのです。・・・


「父の素顔/牧野鶴代」から
『牧野富太郎自叙伝』牧野富太郎著(講談社学術文庫)


 


園内の記念館を訪れると、博士愛用の道具を見ることができます。剪定バサミ、胴乱、根掘り、ピンセット…どれも、鶴代さんの語るように強い愛着をもっていたのだと思うと、博士の姿がより立体的に目に浮かぶよう。

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展示室のケースの中に並ぶ博士の愛用品

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博士が肩に掛けていた胴乱。野外で採集した植物類を入れて持ち歩くための容器です

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ドラマ「らんまん」のエピソードにも登場した、初上京の際に購入した顕微鏡

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展示されている博士の「おいたち」

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館内の展示室には博士の生涯をたどる解説パネルや、直筆の書物や植物図も。博士のおいたちと重ねながら、ドラマの中でものすごい集中力で植物図を描いていたシーンを振り返ると、感動もひとしおです。実際の植物図を前にすると、繊細な筆のタッチに吸い込まれるように見入ってしまいます。


「道具にこだわった富太郎は、ドイツの商社が輸入した剪定バサミを使っていました。現在は生産されていないのですが、富太郎の生き方に共感したメーカーのツヴィリングによって復刻が実現しました。小さめで女性も持ちやすいんですよ」と、牧野さん。パッケージには博士の植物図があしらわれ、見た目もオシャレです。

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博士が愛用していたツヴィリング(当時、ヘンケルス社)製 剪定バサミの復刻版(限定5,000本)
「Makino Edition」を展示販売中。18,700円(牧野記念庭園で購入すると10%割引)

マキノコーヒー提供開始!

博士は戦前からコーヒーを愛飲していました。何でも自分でやる博士はコーヒーも自分で豆を炒って挽いて飲んでいたそう。


・・・どんなに貧乏な時でも、もう戦争中どころじゃなく、何十年も前から、あのコーヒーをちゃんと豆のまま買ってきまして、うちでもう一回いりまして、こうばしくして、自分でひき、そのコーヒーを入れて飲むのをとても楽しみにしておりました。・・・(中略)・・・健康の時分は朝御飯を済ませて、一刻縁側で外など眺めながら必ずコーヒーをいただいたものです。・・・


「父の素顔/牧野鶴代」から
『牧野富太郎自叙伝』牧野富太郎著(講談社学術文庫)


博士が自分で淹れていたのは戦前のこと。晩年は、一緒に暮らした鶴代さんが淹れたものを飲んでいたそうです。


「コーヒーは好きでよく飲んでいたのを覚えています。豆はブラジルミックスでした。同じ豆を使って、牧野記念庭園で富太郎が飲んでいたドリップコーヒーの提供を始めました」


企画発案は牧野さん。博士がコーヒー好きだったことを知ってもらえればと、思い至ったとのこと。博士が飲んだコーヒーを手に、庭を眺める。聞いただけでも豊かなひと時を過ごせそうです。

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博士が毎朝、豆から挽いて飲んでいた「マキノコーヒー(ホット/アイス)」を駐車場で販売中。キッチンカー前で微笑む牧野さん。「自分たちが楽しいことをすれば、お客様もきっと喜んでくれる」と話すアイディアマン。行動力は曾祖父さま譲りでしょうか!?

秋の牧野記念庭園、見どころは?

ドラマは9月で終了しますが、植物観察にお出かけしやすい季節はこれから! 学芸員の伊藤千恵さんにこれから見頃を迎える植物について伺いました。


「9月中旬になるとヒガンバナとシロバナマンジュシャゲが咲きます。ヒガンバナが終わるころに、キンモクセイが見頃を迎えます。キンモクセイは牧野博士が命名し、植えた樹なのでぜひ見てほしいです」

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ヒガンバナ

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シロバナマンジュシャゲ

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キンモクセイ(博士の植栽によるもの)


また、牧野記念庭園では年3回、企画展を開催しています。10月9日(月祝)までは「牧野富太郎 草木とともに」を開催中。

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企画展「牧野富太郎 草木とともに」のチラシ


「ドラマのモデルとなった牧野博士の仕事が、実際どのようなものであったか。実物の植物図や標本を見ていただくことができます。常設展と合わせて見ると、さらに牧野博士を知っていただけると思います」と伊藤さん。

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「ウチョウラン」(画像:牧野一浡氏提供)

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「リンボク」(画像:牧野一浡氏提供)


ドラマで牧野富太郎を知った方は、ぜひ牧野記念庭園へ! 博士が名付けた植物、手がけた植物図、そして言葉や知識はいつまでも残るもの。在りし日の博士の存在を、きっと感じることができますよ!

牧野記念庭園
住所:東京都練馬区東大泉6-34-4(西武池袋線 大泉学園駅南口より徒歩5分)
電話:03-6904-6403
開園時間:9:00~17:00
※ただし、企画展と講習室での映像視聴は9:30~16:30
休園日:火曜日(火曜日が祝日にあたる場合は、その直後の祝日でない日)、年末年始(12月29日~1月3日)
入園料:無料
ホームページ:https://www.makinoteien.jp/