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プロフィール/ふくおかゆきこ 世田谷区出身、練馬区在住。子どもの頃からお菓子好きで27歳でイギリスとフランスに留学し、伝統菓子や料理を学ぶ。2001年に結婚し、現在は中学生と小学生の2人の子どもと夫の4人家族。2014年、大泉学園町にカフェ「アトリエ シュクレ」をオープン。カフェのほか、お菓子教室も運営している。練馬ビジネスサポートセンターの起業セミナー「創業!ねりま塾」卒業生。練馬ビジネスプランコンテスト最優秀賞受賞。平成27年度中小企業庁全国創業スクール選手権ファイナリスト。地元で好きなお店は、前菜からすべてのメニューにこだわりを感じるイタリアンレストラン『A MIO AGIO』(アミオアージョ)。好きな場所は、池があって緑豊かな石神井公園。
農家が多い練馬区では、地元で季節の新鮮な野菜や果物が手に入ります。そんな地元食材を使ったスイーツやランチを食べられるカフェが、東京ワイナリー内にある「アトリエ シュクレ」です。店主の福岡由起子さんに、お店のこだわりやお菓子教室についてお話を伺いました。
本当は帰りたくなかった !? 留学は続けたい、でも結婚もしたい!
〈写真〉お菓子作りをする福岡さん(左)と、店内で販売している焼き菓子
10歳からお菓子作りを始めるほど、子どもの頃からお菓子が大好きだった福岡さん。大学を卒業して企業に就職し、その傍ら有名なお菓子研究家のアシスタントをして常にお菓子作りに関わっていました。ところが、「巷にはいっぱい有名なお菓子屋さんがあるし、ただ好きなだけで、ちゃんとした学校を出ているわけじゃないし、自分のお菓子に自信が持てない…」という思いがありました。
そこで意を決して、27歳の時、会社を退職しイギリスとフランスへ留学! 伝統菓子や料理を学びに行きました。福岡さんは10か月間の現地での生活をこう振り返ります。
「ホームステイ先は、バーミンガムでお菓子会社を経営しているご夫婦のお宅でした。旦那さんがフランス人で、奥さんがイギリス人。語学学校に行きながら、会社直営のカフェでバイトしてケーキの試作をしたり、シュガーデコレーションを結婚式の披露宴会場に納品したり。作業着に身を包んでパン工場でも働き、町の人とも交流して、イギリスの伝統料理も教わりました。いろんな経験をさせてもらい、毎日吸収することばかりで、もう、楽しくて」
お話を聞いているだけでも、なんとも刺激的! でも、当時お付き合いしていた今のご主人を日本に残していたので、「これ以上留学を続けていたら、結婚できなくなってしまう(笑)」と、後ろ髪をひかれる思いで帰国したそうです。結婚式には、ホームステイ先のご夫婦も来日して、出席してくださったそうですよ。
「私のお菓子を知ってほしい」との思いからカフェをオープン!
〈写真〉アトリエ シュクレの入口の様子
2001年に結婚。出産してから2017年まで、練馬区の料理ボランティアスタッフとしてお菓子の講師を担当。その後も、生徒さんが毎月60人も訪れるお菓子教室を自宅で開くなど、福岡さんの日常はいつもお菓子とともにありました。
2015年、東京ワイナリーのオーナー越後屋さんのSNSを見て、ワインの醸造の手伝いを始めることに。ワイナリーには、時々イベントで使われている空きスペースがありました。「ゆくゆくは誰かに貸したいと思っているんだよね」「私、お菓子作りをやっているんです」という越後屋さんとの雑談をきっかけに、福岡さんがスペースを借りてカフェを始めることに。
「カフェを通して、お菓子教室のことや私のお菓子を多くの人に知ってもらいたいという思いがありました。それに、ここがワイナリーということもあって、お酒に合うお菓子も出したいと思いました」
お店で提供するお菓子は、「甘いものが苦手な越後屋さんが食べられる」ことがひとつの基準に。「これはワインに合うね」などのアドバイスをもらって、参考にしているのだとか。まさに名コンビですね。
ちなみに、店名の 「シュクレ」の意味をお聞きすると、「フランス語で砂糖のことです。響きがいいので決めました」とのこと。福岡さんの柔らかい雰囲気ともぴったりですね。
およそ8割が地産地消! こだわりの素材選び
〈写真〉白石農園さんから仕入れた野菜(左)と、ランチのそば粉のガレット(右上)とパニーニ(右下)
カフェではキッシュ、シフォンケーキのほか、コーヒーやハーブティー、もちろんワインもあります。特に人気なのが、1日限定10食のランチです。そば粉のガレットかパニーニから選ぶことができ、具は日替わり。う~ん、どっちにするか迷っちゃいますね!
「安心して食べてもらいたいから、素材は国産にこだわっています。調味料は精製されていない砂糖や菜種油を使い、野菜は採れたてのもの。地元の白石農園さんとご近所のこぐれ村で8割方、農産物を調達できます。地産地消ができるのは、練馬ならでは。ありがたいですね」
こぐれ村とは、JA東京あおばの直売所のこと。東京23区で農地面積が一番広い練馬区。身近にある新鮮な素材を生かさない手はないですね!
「ねりコレ」認定! しっとりふわふわシフォンケーキ
〈写真〉ねりコレに認定された「大泉産野菜を使ったシフォンケーキ」(写真は枝豆のシフォンケーキ)
ねりま観光センターでは、区内のお菓子やグッズ、飲食店の看板メニューを審査し、「ねりコレ」(練馬のオススメ商品コレクション)に認定しています。2018年度は77商品が選ばれました。アトリエ シュクレの「大泉産野菜を使ったシフォンケーキ」もその一つ。柔らかくふわふわの食感、素材の味を生かすため甘さも控えめで、お酒にもよく合います。
「シフォンのスポンジに限らず、しっとりして飲み物がなくても食べられるようなお菓子を作りたい思っています」
福岡さんの理想が、まさにこの「ねりコレ」に認定されたシフォンケーキ! 6月1日に開催された「ねりコレ」の即売会でも、1時間ほどであっという間に売り切れてしまったそうです。他のイベントでも、「あっ、『ねりコレ』商品だ!」と知っているお客さんが大勢いて、反響の大きさに驚いていました。
〈写真〉2018年7月7日の「SEIBU Green Marche」出店の様子
さらに、区内のマルシェにも積極的に参加している福岡さん。これまでに「SEIBU Green Marche(西武グリーンマルシェ)」「ねりまde女子マルシェ」「盆マルシェ」「ネリマナイトマルシェ」などに出店しました。まさに飛ぶように売れて商品がなくなってしまい、焼きに戻って追加することもあると言います。
お菓子作りで「絶対に失敗しない」ってホント!?
〈写真〉お菓子教室で教える福岡さん(左手前)
福岡さんが開催するお菓子教室のタイトルは、「絶対に失敗しないお菓子教室」。
「生徒さんが一から十までできるように教えています。作業を分担して、コツだけ効率良く教える方法もありますが、教室だけで終わらず、自宅でもぜひ作ってほしいので、アフターフォローもしっかりするよう心がけています。『できました!』って連絡をもらうと、こちらまでうれしくなります」
なるほど! 全行程を把握して、家で作る際にもフォローをしてくれるから失敗しづらいってことなんですね。生徒さんの多くは、自分が自信を持って作れるお菓子をマスターしたいという本気の方ばかり。だから要望があれば、マンツーマンや少人数での教室にも対応しています。
「留学していた頃は、フランス菓子のような見た目が美しい色鮮やかなお菓子を目指していたのですが、子どもができてからは、皆さんにもおやつを気軽に作ってほしいという気持ちが強くなり、ビジュアルよりも味や素材、食感にこだわるようになりました」
だからこそスーパーで買える食材で、家にある道具でできるお菓子作りを目指しています。福岡さんのシフォンケーキの味と食感は一度食べたら忘れられない。手でそっと持っても、崩れそうなほどやわらかくて、口の中でしっとりふわ〜と素材の味が広がります。砂糖を最少限に抑えたバランスと技によって作り出されています。
福岡さんの手作りお菓子が、いろんなシーンで活躍!
〈写真〉夏野菜キッシュ、全粒粉スコーン、米粉シフォンなど
毎日忙しく子育てと主婦業、カフェとお菓子教室をこなす福岡さん。明るい笑顔で、はつらつとお話を聞かせてくれました。それは大好きなお菓子を「作ること」と「教えること」を、心から楽しんでいるからなのでしょうね。
そんな福岡さんが描く今後のビジョンについて、お聞きしました。
「今は東京ワイナリーさんのスペースをお借りしていますが、小さな場所でもいいので、気軽にクッキー1枚から買えるようなお店を持ちたいです。また、お菓子のケータリングや卸しの販売を広げていきたい。子どもがもう少し大きくなったら、お菓子教室も定期的に開催したいですね」
プレゼント用にお菓子の詰め合わせを数十セット作ってほしい、アイスクリームに添えるクッキーを卸してほしいなど、福岡さんのもとにはさまざまな依頼が舞い込んできます。きっと地域や人のつながり、そして自分の信じるお菓子作りを大切にしているからでしょうね。
優しい思いが込められた福岡さんのお菓子は、今後は練馬だけでなく全国で愛され、さまざまなシーンで活躍しそうです!
アトリエ シュクレ ブログ
https://ameblo.jp/yukikoshimpo/
(写真上から2枚目左、4枚目、5枚目右、7枚目は福岡さん提供)
取材日:2018年6月29日